東京高等裁判所 昭和46年(ネ)3017号・昭46年(ネ)3093号・昭46年(ネ)2925号・昭46年(ネ)2954号 判決
主文
一、原判決主文第一ないし第七項を次のとおり変更する。
(一) 第一審被告株式會社小川ビルヂングは、第一審原告に対し別紙物件目録記載(一)の建物につき、東京法務局渋谷出張所昭和三七年四月三日受付第八三七二号をもつてした同月二日付停止条件付代物弁済契約による所有権移転仮登記に基づく本登記手続をせよ。
(二) 第一審被告小川源太郎は第一審原告から金一五七八万五九四三円を受領すると引換に、第一審原告に対し同目録記載(二)の土地につき、同出張所昭和三七年四月三日受付第八三七一号をもつてした同月二日付代物弁済契約による所有権移転仮登記に基づく本登記手続をせよ。
(三) 第一審被告フジモト株式會社、同渋谷信用金庫は、右(一)(二)の本登記手続につき承諾せよ。
(四) 第一審被告福田まさ、同中田薬品株式會社、同島田豊作は、右(一)の本登記手続につき承諾せよ。
(五) 第一審原告のその余の請求を棄却する。
二、第一審被告中田薬品株式会社、同島田豊作の各控訴を棄却する。
三、訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを五分しその一を第一審原告の負担とし、その余を第一審被告らの負担とする。
事実《省略》
理由
一宮崎貿易は、昭和三七年四月二日、第一審被告小川ビル、同小川及び有限会社小川薬局(共栄興業が小川薬局の右債務を免責的に引受けたことは後述のとおりである)に対し、右三名を連帯債務者として二五〇〇万円を貸付け、第一審被告小川ビル、同小川との間において、同小川ビル所有の本件建物、同小川所有の本件土地について、右貸金債権を担保するため、共同抵当権設定契約及び宮崎貿易が予約完結権を有する代物弁済一方の予約を結んでいたところ、第一審原告は昭和三八年一〇月三〇日宮崎貿易に対する第一審被告小川ビルらの右債務を代位弁済して、本件土地建物についての右抵当権及び代物弁済予約完結権を取得したものである。その理由の詳細は原判決の理由と同一であるから、その説示(第一審被告福田を除くその余の被告らについては原判決二九枚目表三行目から同四四枚目裏七行目まで、及び第一審被告福田については同四八枚目表末行から同四九枚目表八行目まで)を引用する(但し原判決二九枚目裏一〇行目の被告小川、とあるを被告小川ビル、と訂正する。)
二第一審原告が昭和三九年二月六日第一審被告小川ビル及び同小川に対し、同人らの債務不履行を理由として、本件土地建物についての代物弁済予約完結の意思表示をし、右意思表示が同日右第一審被告らに到達したことは、当事者間に争いがない。しかし当裁判所は、右意思表示はさきに宮崎貿易が右第一審被告らとの間において猶予した弁済期日(昭和四〇年五月二八日)の到来前になされたものであるから、その効力を生ずるに由なきものと判断するものであり、その理由は原判決の理由と同一であるから、その説示(原判決四五枚目表二行目から同四七枚目表四行目まで)を引用する。
三第一審原告は本訴(昭和四八年二月五日午前一〇時の口頭弁論期日)において、新たに第一審被告小川ビル及び同小川に対し、同人らの債務不履行を理由として、本件土地建物についての代物弁済予約完結の意思表示をする旨主張する。右につき第一審被告らは、第一審原告の右主張は時機におくれた主張としてこれを却下すべきであるという。しかし原審においては、第一審原告は昭和三九年二月六日予約完結の意思表示をしたところ、昭和四〇年五月二八日以降に債務弁済期が猶予され、完結の効力が生じなかつたとされたのであり、訴訟進行中年月が経過しているのであるから、これにそつて改めて予約完結権行使の主張がなされてもやむを得ないところであり、また、特別に訴訟の完結が遅延するものとは認められない。第一審被告らの右主張は理由がない。
四そこで第一審原告の右予約完結の意思表示の効力につき検討する。<証拠>をあわせると、有限会社小川薬局は第一審被告小川がその代表者であつて、本件建物に店舗をおき、そして共栄興業は右第一審被告の弟小川源治がその代表者であつて、五反田駅等に店舗を構え、いずれも第一審原告から薬品類の仕入をして薬品類の販売を営んでいたところ、昭和三七年一一月にいたり有限会社小川薬局は経営難となつたこと、そこで共栄興業は有限会社小川薬局の債権債務を引受けた上、本件建物内の有限会社小川薬局の店舗とその名称もそのまま使用して営業を行つていたが、昭和三八年三月共栄興業も手形の不渡を出して倒産するにいたつたこと、同年四月一日共栄興業の債権者集会が開催され、その席上小川源治は、共栄興業の財産、営業の概況を述べた上、共栄興業を再建し債権者に対する債務の弁済ができるようにするために、既存債務の弁済を五ないし七年猶予して欲しい旨述べたこと、宮崎貿易の代表者石毛留吉は共栄興業に対する商品販売業者が既存債権の弁済期日を猶予しながら、商品を供給して共栄興業の再建を計るのであれば、宮崎貿易は本件土地建物の代物弁済予約完結権等の担保権を行使しないで、共栄興業の再建に協力する意思がある旨述べたこと、そしてこれに同調する債権者もいたこと、その後共栄興業の再建策が協議されたけれども、結局具体的再建策が立案されるまでにいたらなかつたこと、共栄興業に対する大口債権者である第一審原告及び酒井商事は、第一審原告らの債権の弁済を確保するため、宮崎貿易に対し本件土地建物につきその有する代物弁済予約完結権等の担保権の譲受を申入れたが、共栄興業の再建についての具体的合意がなされていないことを理由に拒絶されたこと、そこで第一審原告は酒井商事と共同して共栄興業に対する商品供給の取引を再開することによつて、宮崎貿易から右担保権を譲受することを計り、共栄興業代表者小川源治にそのあつ旋を申入れたこと、爾後第一審原告はその常務取締役長浜嘉一郎が主となつて小川源次との間で、取引再開についての協議が行われた結果、第一審原告及び酒井商事は共栄興業に対し取引を再開して商品を供給することを約するとともに、代位取得する本件貸金債権及び既存債権の弁済を向う五年間猶予する旨の合意が成立したこと、そこで同年一〇月三〇日宮崎貿易、第一審原告、第一審被告小川ビル、同小川との間において、本件貸金債権の代位弁済に関する契約が成立し、その結果第一審原告により宮崎貿易に対する代位弁済が行われたこと、第一審原告らは昭和三八年一一月二日から共栄興業に対し、合計四〇〇万円相当の商品を供給したが、同年一二月一三日ころ第一審原告らは共栄興業に残存していたすべての商品を引揚げ、その後は第一審原告らからの共栄興業に対する商品の供給は行われず、共栄興業はその頃倒産したことが認められ、<る。>
右認定事実によると、共栄興業は企図された再建はできず、現在既に倒産し、そのため第一審原告は共栄興業から、本件貸金債権の弁済を受けることは、到底期待できない状況にあることが明らかである。そうすると、第一審原告が昭和四八年二月五日に行つた本件土地建物についての代物弁済予約完結の意思表示は有効であるということができる。
五第一審原告が昭和三八年一〇月三〇日宮崎貿易に対して代位弁済したのは、元本残金二四五〇万円及びこれに対する昭和三八年一〇月三〇日までの日歩六銭の約定遅延損害金一四八万六七八九円の合計二五九八万六七八九円であることは、当事者間に争いがない。第一審原告は、その外代位弁済の日の翌日から完済まで日歩六銭の遅延損害金についても、優先弁済を受けうる旨主張する。
代位者は自己の権利に基づいて求償をなすことをうる範囲において、優先弁済を受けうるのであり、求償をなしうる範囲は、代位弁済が債務者の依頼によつてなされたときは、委任の規定に基づき、弁済金ならびに支払の日以後の法定利息である。本件代位弁済は債務者の同意をえてなされ、またこれが商行為に属することは弁論の全趣旨により明らかであるから、第一審原告は弁済金ならびに代位弁済した日以降、年六分の法定利息につき優先弁済を受けうるに過ぎない。従つて第一審原告が第一次の担保権者として優先弁済を受けうるのは、右二五九八万六七八九円及び右金員に対する代位弁済した日である昭和三八年一〇月三〇日から、当審口頭弁論終結の日である昭和五一年三月一日までの間(一二年と一二四日)の年六分の遅延損害金一九二三万九九二二円のみであつて、これを合計すると本件債権額は四五二二万六七一一円となる。
六第一審被告小川ビルらは、共栄興業は昭和五一年一月二七日到達の書面をもつて、第一審原告の右債権と、共栄興業が第一審原告に対し有する損害賠償債権と対当額において相殺したと主張する。
第一審被告らの右抗弁は当審の昭和五一年三月一日午後一時の口頭弁論期日において、はじめて提出されたものであるが、本訴は昭和三九年三月一九日提起されて以来、第一審において三四回、当審において右抗弁提出まで一九回の口頭弁論期日を重ねており、第一審被告らは共栄興業は昭和三八年一二月中旬に倒産したと主張していることからすると、第一審被告らは少くとも重大なる過失により、時機におくれて右抗弁を提出したものと認めるの外なく、また右抗弁事実について新たな証拠調を必要とすることも考えられる点からすると、訴訟の完結を遅延させるものと認められるから、右相殺の抗弁は民事訴訟法第一三九条によりこれを却下することとする。
七第一審原告は、代物弁済予約完結に基づく、本件土地建物評価の基準時は、予約完結権行使のときであると主張する。しかし右見解に立つと、その基準時以後の遅延損害金を優先弁済の対象としない理由に乏しく、また将来の本登記のときを見越して評価することも困難であるから、現実の清算時期に近づけるのが望ましいことからして、当審における口頭弁論終結時における本件土地建物の評価額を、その基準とするのが相当である。
<証拠>によると、当審口頭弁論終結時における本件土地の価額は一億三三三五万六〇〇〇円であり、本件土地には借地権が付着することが認められ、本件土地に対する借地権の割合は土地価額の八〇パーセントとするのが相当であるから、本件土地の当審口頭弁論終結時の評価額は二六六七万一二〇〇円であり、また本件建物には一階ないし四階とも借家権が付着していることが認められ、本件建物自体の当審口頭弁論終結時の価額は、三三五五万五〇〇〇円であり、本件借家権の割合は、建物価額及び借地権価額の四〇パーセントとするのが相当であるから、本件建物の当審口頭弁論終結時の評価額は八四一四万三八八〇円である。
そして第一審原告は、本件貸金債権の担保として、本件土地及び建物の上に代物弁済予約完結権の担保権を有するから、民法第三九二条第一項の趣旨に則り、本件土地及び建物(借地権を含む)の各価額に準じて、右貸金債権額を按分すると、第一審原告は本件土地につき一〇八八万五二五七円、本件建物(借地権を含む)につき三四三四万一四五三円の優先弁済を受けうる計算になる。そうすると、第一審原告は本件建物(借地権を含む)につき、その差額金四九八〇万二四二七円を、本件土地につきその差額金一五七八万五九四三円を清算金として支払わなければならないことになる。
八その外、第一審原告は、第一審被告小川ビルとの間において本件建物につき、第一審原告の共栄興業に対する医薬品売掛代金債権元本極度額三〇〇〇万円を被担保債権とする根抵当権設定契約及び右被担保債権について代物弁済の予約を締結し、本件建物につき第二次の所有権移転請求権保全の仮登記及び根抵当権設定登記を有しているので、第一審原告は右債権についても第二次の担保権の実行として優先弁済を受けることができる。そして、<証拠>によると、第一審原告は共栄興業に対して、右債権残金として、少くとも昭和三八年一〇月三一日現在で三六四五万二八〇二円を有することが認められる。
第一審被告らは、第一審原告の右債権は、その弁済期日が遅くとも昭和三八年六月末日であり、それより二年を経過しているので、右債権の物上保証人である第一審被告小川ビルは、本訴において右時効を援用するという。右に関連して、第一審原告は、第一審被告らの右主張は時機におくれた主張として却下すべきである旨主張するが、しかし右主張のため訴訟の完結が遅延するものとは認められないので、右主張は理由がない。
<証拠>によると、右売掛代金債権の弁済期日は、最も遅いものが昭和三八年六月末日であることが認められるので、それから二年(弁論の全趣旨によると、第一審原告は医薬品の卸売商人であり、共栄興業は小売商人であることが認められる、卸売商人が小売商人に売却した商品の代価についても、民法第一七三条第一号の適用がある)をへた昭和四〇年六月三〇日の経過に伴い、右債権は消滅するはずであつた。ところが本件記録によると、第一審原告は昭和三九年三月一九日第一審被告小川ビルに対して、右債権を被担保債権とする担保権に基づく本登記手続を求める訴を提起し、右訴状が同年三月三一日右第一審被告に送達されたことが明らかであるから、右債権の消滅時効は、本件訴状が右第一審被告に昭和三九年三月三一日送達されたことにより中断されたことになる。
九第一審原告が共栄興業に対し売掛代金残債権三六四五万二八〇二円を有することは前述のとおりであり、<証拠>によると、これに対する約定遅延利息は日歩五銭であることが認められる。そうすると第一審原告は本件建物(借地権を含む)につき、第二次の担保権実行として、右三六四五万二八〇二円中元本権残額三〇〇〇万円及びこれに対する第一審原告の請求する昭和三八年一二月一日から、当審口頭弁論終結時である昭和五一年三月一日までの間の日歩五銭の遅延損害金六七一二万五〇〇〇円の合計九七一二万五〇〇〇円の優先弁済を受けうることになる。ところが本件建物(借地権を含む)についての差額金は四九八〇万二四二七円であるから、本件建物に関しては清算の余地はないことに帰着する。
一〇されば第一審原告に対し、第一審被告小川ビルは本件建物につき、所有権移転仮登記に基づく本登記義務があり、第一審被告小川は第一審原告から、一五七八万五九四三円を受領すると引換につき、本件土地に所有権移転仮登記に基づく本登記義務がある。第一審被告フジモト、同渋谷信用金庫が本件土地及び建物につき、第一審原告主張のごとき登記を有することは当事者間に争いがないから、同人らは本件土地及び建物はつき本登記手続承諾義務がある。また第一審被告福田、同中田薬品、同島田が本件建物につき、第一審原告主張のごとき登記を有することは、当事者間に争いがないから、同人らは本件建物につき本登記手続承諾義務がある。
一一よつて第一審原告及び第一審被告渋谷信用金庫の各控訴に基づき、原判決を右の限度で変更し、第一審原告のその余の請求を棄却し、その余の各控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、第九三条第一項を適用して、主文のとおり判決する。
(渡辺一雄 田畑常彦 宍戸清七)
物件目録《省略》